神奈川新聞コラムNo.5

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2018.8.10掲載

Q:30代の女性です。立ち仕事をしていてよく足がむくむので、将来下肢静脈瘤になるのではないか、と心配になります。予防法や気を付けることを教えていただきたいです。

A:夏は暑くなり、ご自身の足を見る機会も増え、むくみなど気になる方も多いかと思われます。足のむくみはさまざまな原因で起きます。

第一に、一般的には、リンパや静脈の血の流れが物理的に滞るとむくむと考えられています。代表的なものは、リンパ浮腫(ふしゅ)、静脈血栓、下肢静脈瘤(りゅう)などがこの場合にあたり、エコー、CT(コンピューター断層撮影)、リンパ管の働きを詳しく調べるリンパシンチグラフィーなどで診断していきます。また、肝臓は腫れて大きくなると静脈を圧迫し、心臓は血液を作用するポンプであることから肝臓や心臓の機能がおちるとやはり足がむくみます。採血や胸部エックス線検査、エコーなど定期的にチェックをすることも大切です。

第二に、炎症でも、足はむくみます。この場合、滞るのではなく、逆に静脈血流は増し、静脈壁の透過性が増し水分がにじみ出すためと考えられています。例えば、足をけがするとむくみます。水虫がひどくなるとむくみます。また足に限らず、風邪をこじらせるとむくみますし、睡眠不足でもむくみます。内科的な病気(甲状腺、糖尿、血圧、肝臓、リウマチなど)でも悪化するとむくみます。抗がん剤の投与によってもむくみます。このような時は体全体がむくみますが、足は体の一番下にあるため水分が重力で引っぱられ、最初に目立ってくるのです。

先に述べた2通りのむくみの原因は別々に起きるのではなく、表裏一体で同時に起きてきます。人間の体は、物理的、科学的、心理的、さまざまな要因に影響を受けます。静脈は単なるパイプではありません。
 例えば下肢静脈瘤は単に逆流防止弁が壊れて起きるのではなく、それは氷山の一角に過ぎません。炎症が生じ、科学的(ホルモン)、電気的(交感神経)信号を受け、動静脈をつなぐトンネル(動静脈ろう)が開き、動脈血の静脈への流入、その結果静脈血流が増し拍動を始め、静脈が太くなり逆流防止弁が届かなくなり機能しなくなるからにすぎないのです。私たちはこの状態を「拍動性静脈炎」と呼んでいます。下肢静脈瘤の診察にこういったバックグラウンドの精査、熟慮は非常に重要です。

本題に戻ります。予防法として、単に弾力ソックスを着用することだけでは、本質を見失ってしまいます。定期的に総合的チェックを受けること、ストレスを減らしよく食べよく眠り運動をし清潔を心掛けることこそが足のむくみ予防につながります。

暑さも厳しいですが、こういった点を心掛け、快適な夏をお過ごしください。