神奈川新聞コラムNo.9

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2020.4.14掲載

Q. 65歳女性です。両足がむくみだし、いろいろな病院にかかってみましたが、異常はない、治療は圧迫しかないと言われました。何かいい方法はありますか。

A. 足のむくみの原因は、様々です。心臓、肝臓、甲状腺、子宮、血栓、静脈瘤、リンパ浮腫など。外科、内科いろいろな診療科の垣根を越えて広がっています。血管だけみていても、わからないことも多いのです。人間の体では血管以外の多くの器官、システムも影響し合っているからです。専門細分化が進んだシステムの中では、ときに迷宮に迷いこんでしまうこともあります。

 総合診療という比較的新しいカテゴリーがあります。いろいろな科の枠組みにとらわれず、根本の症状からアプローチしていく診療方法です。病変を、既存のこだわりから離れてよく観察していくことから始まります。足のむくみを超音波で丁寧に観察していくと静脈に血栓も逆流もなく、拍動性の激しい流れがみえることがあります。この病態には、どうやら動静脈瘻が関係しているらしいという症例報告が最近散見されます。動静脈瘻とは、動脈と静脈をつなぐ細いトンネルです。生理的に備わってるもので、けがや手術、高血圧、糖尿、甲状腺疾患など、何らかの刺激やストレスにより拡張し、動脈の血流が静脈へと急激に流入し、静脈の血流が川の氾濫のように増します。静脈の血管壁は元来薄いので、静脈壁の周囲ににじみ出しによるむくみや炎症が生じます。また、血管拡張により逆流防止弁の距離がとどかなくなり逆流現象が生じたりもします。この段階が下肢静脈瘤です。下肢静脈瘤も、動静脈瘻のさまざまな表現型のひとつなのかもしれません。

 治療は、まず原因となる背景の病気(血圧やけがなど)をしっかりと総合診療的に見極め、コントロールしていくことが第一歩です。血管だけにとらわれることなく、全体をよく見ていくのです。次に、局所的に下肢への包帯やストッキングによる圧迫治療となります。これに加えて、静脈血管内の過剰な流れやにじみ出しをコントロールすることも重要です。内服薬やカテーテル治療、外科的手術が有効なこともあります。
こうした、総合診療的アプローチ、超音波でのより細かい検査、カテーテル手術などが今後むくみの治療の新しい選択肢のひとつとなっていく可能性があります。未知の病態に対しては、従来の枠組みやこだわりを捨てて取り組んでいくことも大切かもしれません。

 未知の新型コロナウイルス感染により、犠牲になられた多くの方々のご冥福をお祈りいたします。この混乱を乗りきって、平和な未来が訪れることを願っております。

 


村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)

横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科学教室助手、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会(American College of Phlebology)にてAbstract Grant Winner賞(特別賞)を受賞。2020年2月新型コロナウイルス感染災害のクルーズ船ダイヤモンドプリンセスにJMAT派遣医として検疫業務に従事。